シックスハーフ/池谷理香子のあらすじと感想を書きます。
がっつり内容ネタバレなので、ご注意ください。
あらすじ&番外編の内容
主人公・詩織は兄・明夫と妹・真歩と3人暮らし。母は以前離婚して出て行き、父は亡くなりました。
真歩はこの父母の子ですが、詩織は母と元夫の子、明夫は父と元妻との子なので、詩織と明夫に血の繋がりはありません。
明夫は最初からこの事実を知っていましたが、物語の途中で詩織も知ることになります。
ある日事故で記憶を失った詩織。妹からは嫌われ、学校ではハブられ、味方は明夫だけ。
そんな状況で、詩織は明夫を好きになってしまいます。
このときは血のつながった兄妹だと思っているので、兄を好きになったことに罪悪感を感じていました。
そんな中、記憶をなくす一週間前に付き合いだした一個年下の開と親密になっていき、なんだかんだあって付き合うことに。
それと並行して、詩織はファッション雑誌のオーディションを受けます。最終選考まで残ったものの、落選。
「悔しい」「やりたかった」と心から感じていたところへ、大手芸能事務所のマネージャーからスカウトされ、芸能界入り。
最初はファッション雑誌に出ていたが、グラビアをやることによって才能開花。事務所の期待の星となりました。
公私ともに充実した生活を送っていましたが、記憶が戻ったことで状況は一変。
実は記憶をなくす前から自分が明夫のことをずっと好きだったことを自覚します。
同時に、遊び回って父に心配をかけ続け、死ぬときすら立ち会えなかったことも思い出し、後悔で錯乱してしまう詩織・・・
そこからなんとか立ち直り、開と別れ、明夫への気持ちを封印し、どうにかして真歩に罪を償いたいと考えます。
しかし、実は明夫もずっと詩織のことが好きだったのでした。
二人は結ばれ、ハッピーエンド。
番外編
最終巻の11巻末には、番外編が描かれています。
詩織が21歳か22歳で女優としてバリバリ働き、真歩が高校生、明夫が社会人として地元で仕事をしています。
個人的には開も見たかったのですが、番外編ではこの3兄妹以外のキャラは登場しません。
まーちゃんは、母方のおばあちゃんが住んでいる札幌の大学へ進学したがっているそうです。
それを聞いて寂しがる詩織。
でも明夫は、今の会社は出世すれば東京に転勤できるから、実現すればしーちゃんの側にいれる、と言ってくれました。
で、この日は詩織は東京から帰省していて、まーちゃんは友達の家にお泊まり。
つまり実家に明夫と詩織が二人きり。
それまではキスしかしなかった二人ですが、晴れて結ばれましたー
おしまい。
感想
微糖ロリポップといい、「一応ありえるけどありえない」という設定から物語が始まるのが印象的でした。
しかし物語の展開の仕方が自然なので、無理なく受け入れることができます。
詩織の成長
これが一番の見どころ。
まず外見ですが、話が進むにつれ池谷先生の絵が洗練されていくこともあって、詩織の容姿もどんどん綺麗になっていきます。
コミックス表紙はすべて詩織一人。
どの表紙の服もかわいいのですが、私は5巻の表紙のコートが好きです。
シックス ハーフ(5) (りぼんマスコットコミックス) [ 池谷理香子 ]
表紙のファッションに合う靴が裏表紙に描かれているんですよ。
池谷先生の作品に出てくる女子は、ガリガリすぎないのがいいな〜と思います。肉付きが程よくて魅力的。
また、もちろん内面的にも、最初と最後ではだいぶ違います。
まあ、最初は記憶なくした状態なので丸っきり別人格とも言えますが・・・
芸能界に入り、仕事に「やりがい」を感じ、学校も家族もうまくいくようになる。その順調ぶりは、読んでいるこっちも気分良かったです。
ただ、記憶をなくす前の詩織と、なくした後の詩織では、あまりにも人間が違いすぎるのに少し違和感を覚えました。
あーちゃんのことが好きなんだけどどうにもならない、辛くて辛くて、やさぐれる(?)まではわかるんですが…
人の彼氏・好きな人を取るっていう行動とはつながらないかなーと個人的には思いました。
ところで、あんなケバケバギャルでも、
一応偏差値がそこそこっぽい高校(開が死ぬ気で勉強してなんとか受かったという描写がある)に行ってるのはおもしろいです。もともと頭が良いんだなあ。
妹・真歩への同情
姉・詩織に「ブス」と言われ続け、邪険に扱われてきた気の毒すぎるまーちゃん。。。
似たような経験をした「妹」の皆様も多いのでは?
かくいう私もそうで、幼少期の姉のことを思い出すと腹立って仕方ありません。
あまりにもいじめの手口が似ていたため、真歩に激しく同情するとともに、
まったく姉というやつはどいつもこいつも同じだなと思ってしまいました。(全国のお姉さんたち、すみません。。優しいお姉さんもたくさんいますよね!)
いくら詩織が改心しても、真歩は子供の頃いじめられたことをそう簡単に忘れることはできないでしょう。
何しろ「優しいお姉ちゃん」だったのは真歩が赤ちゃんだった頃なので、記憶に残ってる思い出のほぼすべてが「最悪の姉」としての詩織なのです。
詩織もそれがわかっていて、「まーちゃんの大学費用を稼ぐ」という形で償うことを決めました。これはベストな方法だったと思います。
「優しく接する」なんていう方法だけではとても償いきれないし、押し付けがましいことこの上ないです。
金で解決というのが現実的かつ実用的で良いです。
私も姉が大学費用を立て替えてくれたら、許せたかもしれないのですが。(諦)
明夫の気持ち
明夫の、詩織への気持ちが「恋心」なのか「家族愛」なのかは、かなり微妙だと思います。
どちらもあるというのが正解ではないでしょうか。
詩織を女の子として意識することは絶対に許されなかった家族環境で、告白し続けてくる詩織。
なんと大変な生活なんでしょう。
詩織の卒業式の日、電話で明夫が詩織に気持ちを伝えた時の言葉も、
かなり際どいものとなっています。
しーちゃんが誰よりも満たされた人生を送る事が僕の願いだ
『シックスハーフ』/池谷理香子 11巻 (2015年出版)電子版P166より引用
「好きだ」と告げるわけでもない、「行くな」と引き止めるわけでもない、自分を選んでほしいわけでもない。
このシーンの、明夫の一連のセリフを読むと、恋ではなく愛だなあと思います。
明夫は一見しっかり者のお兄ちゃんですが、特殊すぎる家庭環境のせいで、その内側は実は登場キャラの中で最も混沌としていたと推察します。
瑞希にフラれるときに、「自分が好きなのは瑞希だけ」「結婚して家族になりたい」と言ったのは、嘘をついたわけではなくその時点では明夫の本心だったと思います。
小さな頃から詩織への気持ちは強制的にシャットアウトさせられていたわけですから。
瑞希が菊川家の事情を知ることなく、
詩織の記憶は戻らず、
明夫と瑞希は結婚し、
詩織は開と付き合い続け・・・
と展開すると最も平和だったのかもしれません。
とはいえ明夫が瑞希にずっと隠し事しなければいけなくなるので、明夫的にはやっぱりしんどいから、ダメか。
情景描写が綺麗
池谷先生は、ファッションもさることながら、背景や家もしっかり描いてくれます。
海は茨城県で、家は福島の貸別荘がモデルだそうです。
しょっちゅう出てくる海岸のシーン、とても綺麗。最後に明夫と詩織が気持ちを伝え合うのもこの場所でした。
詩織が父の死後にここに来て泣いたり、記憶喪失後に度々一人で来ていたり。
詩織にとってお気に入りの場所であり、読者にとってもずっと見てきた場所だったから、じーんときた。
家の中も素敵です。キッチンカウンターがあるって、オシャレ。
その他みどころ。
・開がだんだんカッコよく見えてくる不思議
詩織同様、開のリーゼント頭にドン引きした読者も多いことでしょう。
でも頼りになるしまっすぐだし、かっこ良く見えてくるんですよね。
残念ながら詩織とは別れてしまいますが、明夫のことは置いといても、芸能活動に目覚めた詩織を支えられるタイプではない風に描写されていたので、別れるのは必然だったと思います。
・敏腕マネージャーの存在感
詩織がグラビアに向いていると見抜いたり、グラビアを見て激怒した明夫を見事に納得させたり、詩織がコーヒーぶっかけられた時にはマジ激怒したり。
一見意地悪そう(?)でしたが、最高のマネージャーでした。
こういうのが仕事できるって言うんだなあ、こういう人が出世するんだろうなあと思いました。
・詩織母とその男のゲスぶり
もうちょっとマシな描き方なかったんかと可哀想になってくるくらい、ひどいおばさんとおっさんでした。
お母さんは、悪人じゃないんだけどちょっぴり迂闊でおっちょこちょいで〜くらいなら良かったんですが、
明夫への思慮に欠ける言い様を見ると、さすがに引きました。
こんなおばさんを許せる明夫・詩織・真歩、全員すごい。
母よりよっぽど大人だ。
まとめ
池谷先生の作品では恋愛ばかりではなく、
「家族模様」も恋愛と同じくらいか、またはそれ以上に重要なポイントとなっています。
シックスハーフもそうです。家族の描写が素晴らしい。
複雑な事情が絡み合っているけれど、ものすごく丁寧に描かれていて、
共感したり、心情を推察したり。
開と別れるのは既定路線だったとしても、
明夫とくっつくのかくっつかないのか!?というところで読者として最後まで揺さぶられてしまいましたが、
幸せな終わり方でよかったです。
シックスハーフ、オススメです。
私は一巻読んだら止まらなくなって全巻買ってしまいました。
是非どうぞ。
シックスハーフ(1) (りぼんマスコットコミックスクッキー) [ 池谷理香子 ]